今回は医学部で習うカルテの書き方について書いていきます。
カルテとは何か
カルテの語源は英語ではない!
(最初におまけ情報ですが)「カルテ」は英語ではありません。ドイツ語の”Karte”が元となった言葉です。英語では “patient chart”・”medical chart”などと言います。”health record”という言い方もあるようです。
カルテは公的な文書である
カルテとは、医師法に示された「公的な文書」です。医療関係者のメモ帳ではありません。「公的な文書」であるため、適当に描くことは許されません。
カルテを書く目的
カルテを書く目的はいくつもあります。例えば以下の通りです、
- 毎日の記録になる。(記入しないと忘れてしまう)
- チーム医療のため(情報のシェアに使う)
- 診療プロセスの可視化(何をやってきたかわかるようにする)
カルテのフォーマットは決まっている!
以上に記したように、公式文書でありかつ医療記録として必要不可欠なカルテですが、形式がある程度決まっています。病院ごと、または地域ごとに、まったく違うカルテを記入していては、その目的・存在価値が無意味になってしまうでしょう。カルテのフォーマットを学ぶことが、医学部での学習課題になってきます。(カルテの標準化のメリットは以下の通りです。)
- 誰が見てもフォーマット通りであれば、一定の質が保たれ、仕事の効率・質は保たれる
- 誰が見てもわかりやすくなり、連携しやすい+トラブルが減る
- ある程度の書き方が決まっているから、変に悩まず、慣れたらすらすらと書けるようになる
- フォーマットが決まっていれば、どこを読めばよいかわかるから、自分の必要とする情報にアクセスしやすくなる
- 治療の遅れ・ミスが減る
カルテの原則の書き方はSOAPである!
カルテのフォーマットについて、力説してきました。「では、その書き方は?」と言えば、一言でいえば”SOAP”なのです。SOAPとは以下の4つの言葉で成り立っています。
- S:subjective・・・「主観情報」つまり主訴(主な訴え)・現病歴(今の病気のこれまでの経過など)・既往歴(これまでかかったことのある病気の話)などが含まれる。
- O:Objective・・・「客観的情報」つまり、医師から客観的に見た情報(所見)や検査所見などの客観的情報が含まれる。
- A:Assessment・・・「評価」つまりS,Oを踏まえて、医療者が、どう「評価」したかなどの情報。
- P:Plan・・・「計画」Assessmentに対しての計画=いつ、だれが何をするのかなどの情報。
カルテを記載するときには、この4つの情報を書いていくことになります。では、それぞれの項目について、具体的に見ていきましょう。
S:subjective「主観情報」
subjectの基本情報
Subjectiveでは、主に以下の情報を記します。
- 「主訴」(どうして病院に来たか。)
- 「現病歴」(今の病気はどんな状態か。)
- 「既往歴」(これまでどんな病気にかかっているか。)
- 「副薬歴」(どんな薬を飲んでいるか。お薬手帳など。自分がどんな病気にかかったかわからない患者さんもいるが、その人が飲んでいる薬から既往歴を推測することもできる。)
- 家族歴(血縁家族・同居人に似た症状の人はいないか。)
- 生活歴(飲酒・喫煙などはするか。職業は何をしているか。どんな所に住んでいるか。)
これらの情報を (ほかの医療従事者でもわかるように) 医学用語を用いて書きます。
主訴・現病歴(痛み)には OPQRST/LIQORAAA
「おなかが痛い」などの「痛み」を訴えている患者さんへのアプローチで有名なものとして OPQRST/LIQORAAA があります。具体的には以下の通りです。
OPQRST は以下の通りです。
- Onset:発症機転
- Palliative&Provoke:寛解・増悪
- Quality&Quantity:性状・強さ
- Region:部位
- Symptoms:随伴症状
- Time course:時系列
LIQORAAAは以下の通りです。
- Location:部位
- Intensity:強さ(影響度)
- Quality:性質
- Onset:発症機転〜経過
- Radiation:放散
- Alleviative factors:寛解因子
- Aggravating factors:増悪因子
- Associated symtoms:随伴症状
これらは「痛みの要素」の代表例です。これらの要素を網羅すれば、「痛みに関する情報は大体は網羅できたといえる」というものです。もちろんすべてを聞けているわけではありませんし、臨機応変的に対応しなければいけませんが、「少なくともこれくらいの情報は必要である」ということでしょう。
既往歴
既往歴で聞かなければいけないことは二つあります。それは以下の通りです。
- 過去に症状が出て、今はもう治っている(と思っている)病気
- 過去に症状が出て、今も症状は続いている疾患
「昔の病気が治ったと思っていたら治っていなかった。」「昔の病気の影響・昔の治療の影響で今の病気になった」ということもありますから、注意が必要です。
O:Objective「客観的情報」
Objectiveでは主に以下の内容について記します。
- 全身を診察して客観的にわかること
- 全身状態(ABCD = airway + breathing + circulation)
- バイタルサイン(体温・脈拍・血圧・呼吸数)
- 検査結果・・・検体検査(血液検査など)・生理検査(心電図や超音波検査など)・画像検査(X線・CT・MRIなど))
Subjectiveでは、患者から聞いた情報をそのまま書きますが、Objectiveでは、「直接見た情報」を書き込みます。Subjectiveの情報は多少不確実である可能性もありますが、Objectiveのところでは、直接見た、確実な情報になります。
A:Assessment「評価」
Subjective/Objectiveで様々な情報が収集されましたが、「では、この原因は何か?」「考えられる病気は何か?」ということを考えるのです。
例えば、「腹痛」を見たときに、「この腹痛の原因は何か?」を考えます。腹痛の原因にはいろいろなものがありますが、たくさんの可能性を考えつつ、また、同時に、どの病気の可能性が高いかも考えます。
S/Oで集めた情報を用いて、「これからどうしていけばよいか」「今どんな可能性があるか」と思考するフェーズです。集めた情報から頭で考える段階です。
P:Plan「計画」
Assessentで様々な病気の可能性を考えました。Planでは「診断プラン」「治療プラン」「説明プラン」を記入します。
診断プラン
Assessmentのところで様々な病気の可能性について考えましたが、ここで病気を断定できないことも多いです。追加で診察や検査を行う必要がある場合もあります。なんのために、いつどんな検査を行うのかのプランなどを書きます。
治療プラン
病気に対して、医療が行うアプローチのプランです。どんな治療をどの時期にどのように行うかを書きます。これにより、治療計画が立てられ、治療が可視化されます。治療を重複して行ったり、治療をy理忘れたりすることの防止にもなります。
PlanはOで考えた内容を「具体化していく」段階です。Oで思考を巡らせるだけでは、何も医療はできません。Oで考えた内容を行動に起こしていく、その指針・目標を書くことになります。
なんでこんな面倒な書き方をするのか
学生をの身分からすると、「なんでこんなにたくさんの内容をっかなくちゃいけないんだ!」と多少ぼやきが出ます。しかし、これにはちゃんとした理由があります。
こんなに多くの内容をカルテに書く理由は、「POS(problem-oriented system)=問題志向型診療システム」を行うためです。つまり、患者の持つ問題をリストアップし、問題解決の流れを重視しているのです。(患者本位の医療に基づく考え方)
例えば、ある医師が、自分の天才的な発想とひらめきで、一瞬で病気を見抜き、すぐさま治療したとしましょう。うまくいった場合は良いかもしれませんが、それでは、ほかの人が何もわかりません。将来、今回の病気が原因で別の病気になるかもしれませんし、今回の病気が完治しないこともあるでしょう。医師の見落としも防ぎえません。
多くの情報を書くことで、「見落とし」を防ぎ、また、「診療・治療の流れ」を記録しておくことで、「これまで何をしてきたか」を可視化し、次の医療につなげることができるのです。
まずはSOをかけるように(先生から直伝内容)
正直学生から言って、「診断を付けることは非常に難しい」です。患者さんの抱える問題が、一つの病気が原因であるとは限りません。
そのため、学生としての目標は、まず、「SとOをまとめられるようにする」ことが当面の目標となります。
患者さんとしても、医師には直接言いにくいような内容(「治療がつらい」「早く家に帰りたい」)を学生に伝えやすいこともあります。(不満のはけ口・サンドバックにされることもあります。)そのため、学生はある意味、「S/Oを得意にしやすい」のです。まずは、SOをかけるように、かけるようになったら、順次APに進めるように勉強しましょう。
たくさんある!診療の際に聞くべきこと語呂合わせ
OPQRST やLIQORAAAについて上で書きましたが、それら以外にもたくさんの診察に関連するゴロ合わせがあります。それらをなるべくたくさん、付録として書いていきます。
ABCDEFG
- Anamne & Allergy:既往歴・アレルギー
- Background:病気の背景にある生活環境など。(職業・住居等)
- Cook:口の中に入れるもの全般。(食欲、酒、喫煙)
- Drug:服薬歴
- Exposure:曝露歴(ペット、最近の旅行など)
- Family:家族歴(血縁の家族。同居人)
- Gynecology:女性関連の質問(妊娠、月経など)
PAMHUGSFOSS
- Pastmedicalhistory:既往歴
- Allergy:アレルギー
- Medication:服薬歴
- Hospitalization:入院歴
- Urinary:泌尿器(排尿)
- Gastrointestinal:消化器(排便)、婦人科(月経歴など)
- Sleeppattern:睡眠
- Familyhistory:家族歴
- Obstericsandgynecological:出産歴、月経
- Smokingandalcohol:飲酒喫煙歴
- Sexualhabit:性交歴
DOCFP
- D:Duration:症状の持続時間
- O:Onset:始まり。急だったか。
- C:Course:経過
- F:Frequency:頻度
- P:Precipitatingfactor:誘因
STATES
- S:Sickcontact:病人との接触
- T:TBcontact:結核患者との接触
- A:Animalcontact&intake:動物との接触・生肉の食事
- T:Travelhistory:渡航歴
- E:Environmentalexposure:環境曝露(山、川、池、温泉など)
- S:Sexualhistory:性行為歴