医の倫理学

医の倫理学11~遺伝子治療とゲノム編集(遺伝子改変)~デザイナーベイビー

前回は遺伝子検査等に関する倫理学について学びました。今回は遺伝子改変やデザイナーベイビーについて学びます。

遺伝子治療

定義など

遺伝子治療とは、疾病の治療や予防を目的として、遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与することです。

対象としては、遺伝病に限らず適応されます。がん治療や感染症治療にも使われます。

従来、遺伝子治療と言えば、「特定の遺伝子から作られるタンパク質を体に補充して細胞の機能を回復させる」補充療法が中心でしたが、遺伝子そのものが改変できるようになってきています。

遺伝子治療とゲノム編集の歴史

  • 1973年:組み換えDNA技術開発
  • 1990年:世界初の遺伝子治療臨床研究開始(ADA欠損症の患者)→臨床研究の増加
  • 2000年:遺伝子治療臨床試験が初めて成功(SCID-X1)
  • 2012年:欧米発の遺伝子治療薬Glybera承認
  • 2013年:CRISPR-Cas9開発

ゲノム編集

前回、「遺伝情報は変えられない」とは書きましたが、少しなら変えられるようになっているのです。

特定の細胞に対してCRISPR-Cas9などの技術を使えば、ゲノム編集ができるというのです。自然突然変異を人工的に引き起こそうとするものです。農林水産業分野では、品種改良の技術として使われています。

医療分野では、治療技術の開発などに応用されることが期待されていますが….

医療におけるゲノム編集

ヒト受精卵ゲノム編集

ヒトの受精卵の遺伝子をゲノム編集技術などを用いて改変することは、日本では規制されています。

「親の好みの能力や容姿を持ったデザイナーベイビーの誕生につながる可能性」が指摘されています。

デザイナーベイビー

デザイナーベイビーとは「意図的に遺伝子を操作することによって、設けられた子供のこと」です。

「優れた性質を持つ子供を持ちたい」などのように「子供にこうあってほしい」との「親の欲望が詰まった子供」とも言えます。

このような命を思いのままに操ろうとする行為は技術の進歩で可能にもなりうるのです。(それが良いか悪いかを考えるのが倫理ともいえる)

エンハンスメント

ここで一つの見方として、エンハンスメントがあります。

定義

定義としては、

何らかの疾患に対してではなく、「正常」に働いている人間の身体や心理に直接介入して、それらを変化させるという形で、生来の素質や活動能力を強化し、向上させるために、バイオテクノロジーの力を直接使う事

と定義されています。

批判

エンハンスメントへの批判としては、

  • 安全性の問題
  • 公平性の問題:一部の人が技術を用いて競争において優位にたつことは不公平であるとする考え方。技術にアクセスできる人とできない人で格差ができる。
  • 人間の尊厳の侵害:エンハンスメントは、人間らしさ、人間らしい行動をむしばむ。例えば、スポーツ。素晴らしいプレーが出たとしても、それは、個人の努力ではなく、科学技術によるものとされてしまう。つまり、スポーツは、娯楽というよりは、見世物にしかならない。
  • 差別:エンハンスメントの根底には優生思想がある。多様性の否定につながる。

これらが批判として挙げられています。これらは「ドーピング」とも絡んでいるかもしれません。(次回記事になります。)

まとめ

遺伝子技術は多くの人を助けるものでしょうが、倫理の問題にも関わります。「優生思想万歳」「技術の進むままに進歩しよう」と考える人もいるでしょう。それも一つの考えとしてよいです。

一方で、「危険もある」ということは知っておくとよいかもしれません。

医の倫理学11-0~ドーピングはなぜ禁止?スポーツの価値とエンハンスメントスポーツのニュースについてまわるドーピング。今回は「どうしてドーピングはいけないのか?」について考えます。 今回の記事では途中、ドーピ...