医の倫理学

医の倫理学8~人工妊娠中絶

前回、生殖補助技術・救世主兄弟など「出産」に関連した内容を学習しました。

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今回は人工妊娠中絶などの「産まない選択」の記事を書きます。前回は「産む」思考だが今回は「産まない」思考ぜひ対にして読んでみてください)次回は「出生前診断」「産む産まないの判断」を学習します。

中絶をめぐる欧米社会の議論の動向

中絶は禁止だった

19世紀の中頃までは「中絶は不正である」と言われていました。「中絶禁止法」があったこともあります。

この背景には

  • カトリックの教義
  • ヒポクラテスの誓い等の医の倫理
  • 世論

がありました。

中絶合法化への動き

ただ、1960年代から「場合・理由によっては、中絶も許されるのではないか?」と言われるようになってきました。

フェミニズム運動により、「産まない選択も与えられるべきだ」とされてきたのです。

  • 1967イギリス:人工妊娠中絶法
  • 1975フランス:妊娠10週以内の女性の請求による中絶合法化
  • 1975スウェーデン:妊娠12週以内の女性の請求による中絶合法化
  • 1978イタリア:妊娠90日以内の中絶合法化

議論

中絶を議論するときには、「胎児は人と同じ道徳的地位を持つのか?」という議論になります。

胎児が人と同じ権利を持つとするなら、中絶は「胎児=人」を殺すことに同じです。そのため、「胎児=人」とすれば中絶はいけません。

では「胎児=人」としない時はどうするか?「胎児=人」となるのはいつからか?

  • 受精した時から「胎児=人」なのか
  • 着床した時から「胎児=人」なのか
  • 胎児が人の形を持った時が「胎児=人」なのか
  • 胎児が母親の体から出ても生きられるなら「胎児=人」なのか
  • 胎児が生まれてから「胎児=人」なのか

どのタイミングで「一人の人」として認められるのでしょう?そのような問題に発展するのです。

  • Jヌーナンという人は「受精の瞬間から人間の生命は始まる」と言いました。
  • トゥーリーという人は「胎児は自己意識を持たないため人格ではない」と言います。

意見がいろいろなところで分かれているのです。宗教的な問題もあります。簡単な話ではありません。

権利対立

中絶は「胎児の生きる権利」と「女性の権利」が対立する瞬間でもあります。

J.J.トムソンという人の話で有名な話があります。少し噛み砕いて書くと以下の通りです。

あなたは目を覚ますと、見知らぬ男とつながれていた。管で体と体が繋がれていたのである。見知らぬ男は、「意識不明のバイオリニスト」らしい。このバイオリニストは有名人。あなたと管でつながれていることでしか命を長らえられないという。9ヶ月後にバイオリニストは目をさまし、あなたは彼とつながっていなくてよくなる。周りの人は言います。「あなたがいないとこのバイオリニストは死ぬ。彼のために1ヶ月間、動きは制限されるが、彼とつながれたままでいてくれ。」

あなたは彼のために、管でつながれた9ヶ月間を過ごしますか?それとも管を引っこ抜いて普段の生活を過ごしますか?

中絶の話は

  • 「あなた」→「女性」
  • 「バイオリニスト」→「胎児」

と置き換えた話と同じです。

中絶は「母親の権利」であり、同時に「胎児の権利」を脅かすのです。権利が対立してしまう瞬間もあるのです。

日本における中絶の歴史

歴史

江戸時代から「堕胎はよくない」とは言われていました。明治時代に入り、「兵隊を作る」観点から、また、ヨーロッパの法律をまねて、中絶禁止の法律ができています。

  • 1880 旧刑法 堕胎罪
  • 1907 刑法 堕胎罪
  • 1940 国民優生法
  • 1948 優生保護法
  • 1970年代以降中絶に関する議論
  • 1996 母体保護法

母体保護法

母体保護法では

  • 妊娠の継続等が身体的または経済的理由により母体の健康を害する恐れがある場合
  • 望まない妊娠の時

の時に堕胎が認められています。

日本では、「経済的理由による」堕胎が多いそうです。

まとめ

今回は人工妊娠中絶「産まない選択」に関連した内容を学習しました。

  • 自分はこれらの行為に賛成か反対か?
  • どこまで認めるべきなのか?

考えてみてください!次回は「出生前診断」「産む産まないの判断」を学習します。